相続の基礎知識 用語説明
相続とは?
相続とは亡くなった人の財産を配偶者である夫や妻、子供など一定の身分関係にある人に受け継ぐことです。法律用語では受け継ぐ人のことを相続人といい、亡くなった人のことを被相続人といいます。
相続には法定相続と遺言による相続の二種類があります。法定相続の場合には法律によって受け取る人や分割比率などが定められていますが、必ずしも定めに従った分割をする必要はなく、遺産分割協議といって相続人同士の話し合いによって受け取る人や割合などの分割方法を決めることができます。また被相続人が遺言書を作成していた場合には、原則遺言書どおりに相続することになりますが、遺贈者がいる場合は受遺者も含め相続人全員の同意があれば遺言書と異なった分割を行うこともできます。
遺言書とは?
自分の財産や権利を自分が亡くなった後に誰に、何を、どのくらい渡すかを生前に決めておき、それを書面に残してあるものをいいます。遺言書には自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があります。
自筆証書遺言とは?
この遺言書は呼んで字のごとく「自筆」つまり遺言者が自分で書く遺言書です。
したがって代筆はもちろんのことパソコンやワープロを使用して作成することもできません。もし一部でも代筆やパソコンの部分があると無効になるので注意が必要です。
またすべて本人が書いたものでも民法で定めたとおり作成しないと遺言書として認められないこともあります。
民法で定められた用件とは①全文自筆で書くこと。②必ず作成した年月日の記載と遺言者の署名押印をすること。③訂正や変更する場合はその箇所に署名と訂正印をすること。
その他気を付けることは、①判読しやすい文字で書くこと。②偽造や変造などを防ぐために封筒に入れて押印をしておくこと(押印はなくても無効にはなりません)③曖昧な表現は避けること。④遺言書の保管は気をつけること。但しわかりにくい場所に保管してしまうと遺言書の存在がわからない場合がありますので注意が必要です。尚、遺言書の存在をご家族に教えておく方もおられます。
公正証書遺言とは?
この遺言書は公証役場で公証人に作成してもらう遺言書です。
公正証書遺言は、遺言者が本人であるか確認するための実印と印鑑証明、それと相続人や遺贈者との関係を証明する戸籍謄本などを用意し、証人2名と一緒に公証役場に行って公証人に遺言の内容を書面ないし口述し、作成されるものです。
また病気などで公証役場まで出向くことができない場合は、公証人が自宅や病院などへ出張してもらい作成することも可能です。
作成された公正証書遺言は原本と正本が作成され、原本は遺言者が130歳になるまで公証役場で保管されるため紛失や偽造の心配がありません。また原本と同様の効力がある正本は遺言者に渡されます。渡された正本を万が一紛失してしまった場合でも再交付が受けられます。
公正証書遺言は検認手続きの必要がないため、相続が開始されたら相続人がその場で開封することができ、遺言の執行も迅速にすすめることが可能です。
秘密証書遺言とは?
この遺言書は遺言の内容は秘密にしたまま遺言書の存在だけを証明してもらう遺言者です。
まず遺言を自分で作成します。できれば直筆が良いですが、パソコンを使用したり代筆してもらったりしても構いません。遺言書を作成したら押印し、封筒入れて同じ印鑑で封印します。そして証人2人以上連れて公証役場に行き、封書を提出し公証人および証人の前で住所氏名そして自己の遺言書であることを申述します。公証人は提出された封筒に提出日を記載してくれます。最後に遺言者と証人が封筒に署名押印し終了となります。作成された遺言書は遺言者が持ち帰り自分で保管することになります。
公正証書遺言の存在の検索方法
公正証書遺言については、平成元年1月以降に作成されたものに限り「遺言登録システム」により、その存在の有無、照会を行うことができます。申請人となるのは、相続人や遺言執行人等の利害関係者及びそれらの代理人となります。尚、遺言者の存命中は遺言書作成者本人でないと申請はできません。
配偶者とは?
婚姻関係にある夫または妻のことをいいます。
法定相続人とは?
法定相続人とは民法で相続するということに決められている人のことです。その順位は法律上決められており、第一順位は子供となります。子供が既に亡くなっている時は孫となります。第一順位が存在しない場合は第二順位である父母となり、父母が既に亡くなっている時は祖父母となります。第一第二順位が存在しない場合は第三順位である兄弟姉妹となり、兄弟姉妹が既に亡くなっている時は兄弟姉妹の子供つまり被相続人からすると甥姪が相続人となります。配偶者は以上に述べた相続人と同順位で常に相続人となります。
次に相続人が遺産を受け取る割合ですが、配偶者と第一順位の相続人で相続する場合は、配偶者が1/2、残りの1/2を第一順位者で等分に分けることになり、配偶者と第二順位の相続人で相続する場合は、配偶者が2/3、残り野の1/3を第二順位者で等分することとなります。そして配偶者と第三順位の相続人が相続する場合は、配偶者が3/4、残りの1/4を第三順位者で等分することになります。
遺贈とは?
遺言書において法定相続人でない者に財産を渡すことを意味します。
財産とは?
相続において残された故人の財産のことを「相続財産」とか「遺産」とかいいますが、どちらも同じ意味です。相続財産や遺産と聞くと、現金、預貯金、不動産、株などのプラスの財産をイメージする人が多いようですが、相続財産にはいわば負の財産といわれる借金や未払の税金などのマイナスになるものもすべて含まれます。さらに被相続人の権利や義務も相続財産となるため、特許権や著作権、損害賠償等の請求権も相続財産になりますが、一方で連帯保証人の債務や賠償義務などの支払いが生じるものも相続財産となります。
相続する財産は選べるの?
相続財産の中には預貯金や不動産などのプラスになるものと、借金などのマイナスとなるものがありますが、プラスになるものだけを受け取り、マイナスになるものは受け取らないということはできません。
相続開始とは?
相続が開始するのは被相続人が亡くなったその瞬間だということになっています。
相続放棄手続きとは?
被相続人の財産の一切を相続しないようにする手続きです。
この手続きによって被相続人に借金があった場合は借金を引き継ぐことはなくなります。しかし同時に不動産や預貯金などのプラスの財産も引き継ぐことができなくなります。よってプラスの財産よりマイナスの財産の方があきらかに多い場合にとる手続きです。
この手続きは相続の開始から3ヶ月以内もしくは借金があったと知ってから3ヶ月以内に被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立を行わなければなりません。またこの手続きは相続人それぞれが単独で申立を行うことができます。但し借金を知ったときにすでに他の財産を相続しているときは相続放棄の手続きを行うことができません。
尚、相続人の子供全員が相続放棄手続きをするとその相続権は親になり、両親が共に相続放棄手続きをすると次に兄弟姉妹が相続人となります。兄弟姉妹が相続放棄手続きをしても甥や姪にはいきません。
限定承認手続きとは?
プラスの財産の範囲を限度として、マイナスの財産を引き継ぐ手続きです。
主に相続財産にマイナスの財産つまり借金がある場合で、その額が不明な場合にとる手続きです。
この手続きは相続の開始があったと知ってから3ヶ月以内に被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立を行わなければなりません。但し、この手続きは相続放棄手続きをした相続人を除いて、相続人全員が共同で行わなければなりません。
代襲相続とは?
本来相続人となるはずの人が、相続開始時に既に死亡している場合に、その人の子供が相続人となる制度です。
遺産分割調停とは?
相続が開始され遺産の分割について相続人同士の話し合いが付かない場合に、家庭裁判所に遺産分割調停又は審判の手続きをすることで、裁判官と調停委員で組織される調停委員会が中立公正な立場で双方の言い分を聞き調整したり、時には解決策を提案したりして円満に解決できるよう導いてくれる手続きです。
遺産の分け方?
現金のように相続人同士で分けることのできるものは問題ありませんが、不動産のように簡単に分けることのできない遺産の場合はなかなか話が進まなくなることがあります。そのような時は不動産を相続人の共有持分として登記することはできますが、権利関係が複雑になるばかりか、将来のことを考えると争いの種になることになり必ずしも良い方法とは言えない場合もあります。
そこでそのような時は代償分割(だいしょうぶんかつ)といって相続人の一人が不動産を取得する代わりに、自己の現金を他の相続人に支払うという方法があります。もちろん支払う資産がなければ成立しませんが、共有持分にしておくよりも将来の争いは回避されます。また現金で支払うのではなく不動産などの金銭以外の自己資産で支払う代物分割(だいぶつぶんかつ)という方法もあります。その他にも換価分割(かんかぶんかつ)といって不動産を第三者に売却し現金化して分け合うという方法もあります。ただしこの場合被相続人の名義のまま売却をすることはできません。まず相続人に名義を変更してから売却しなければなりません。名義人は法定相続分で相続人全員とすることもできますが、相続人の中から代表者を決めその代表者に名義を変更して売却することもできます。尚、不動産を売却した場合には譲渡所得税が課税されますのでご承知ください。
遺留分とは?
法定相続人は相続財産を受け取る権利があると定められています。にも拘らず被相続人が作成した遺言書に自分の受け取る分が記載されていなかったり、記載されていても法定相続割合の半分未満であったりした場合は、法定相続割合の半分は受け取る権利があります。その権利のことを遺留分といい、それを請求することを遺留分減殺請求といいます。
ただし相続人であっても兄弟姉妹は遺留分減殺請求権はありません。また遺留分減殺請求には時効があり、相続開始および遺留分が侵害されていることを知ったときから1年以内に他の相続人や受遺者に対し請求をしなければなりません。また相続開始から10年経過してしまうとその後遺留分が侵害されていることを知ったとしても時効となります。遺留分減殺請求は口頭ではなく書面で請求しておく必要があります。